柔道の「空気投げ」と旭山動物園からデザインの意味を考える(中編)
2月の下旬のある日,北海道の旭山動物園に行ってきた.旭山動物園は年間300万人以上の訪問者があるという人気の動物園で,大変面白い展示の仕方で知られている.ブームになってかなり経つし,「ようやく今頃」なのではあるが,実際に足を運んでみて,確かにわざわざ北海道の外からも訪れるだけの価値のある場所だということがよくわかった.
これはもはや従来の動物園というカテゴリでは収まらないのでないか.有名な"あざらし館"や"ぺんぎん館"などのユニークな展示施設だけではない.園内の隅々まで温かい工夫が凝らされ,動物たちと人間の関係,そして生命が循環する生態系についての真摯なメッセージが訴えられており,僕もいっぺんにファンになってしまった.
中編では,旭山動物園の様子を紹介してみる.
これはもはや従来の動物園というカテゴリでは収まらないのでないか.有名な"あざらし館"や"ぺんぎん館"などのユニークな展示施設だけではない.園内の隅々まで温かい工夫が凝らされ,動物たちと人間の関係,そして生命が循環する生態系についての真摯なメッセージが訴えられており,僕もいっぺんにファンになってしまった.
中編では,旭山動物園の様子を紹介してみる.
もうじゅう館のアムールヒョウ.このアングル!これはヒョウが木に登る習性を押さえた上で,彼らがもっとも快適にくつろげるように設計されているのだそう.客はこのアングルで雄々しさを堪能しつつも,ふわふわの毛並みや手のひらの肉球まで間近で観察することができる.
P1070217_2 posted by (C)peru
手前にいるのが,キングペンギンのヒナと成鳥.全く似つかないが,この茶色いのが成長してとなりのようなキングペンギンになるそうだ.
この毛まみれの変な物体が,のそのそとゆっくり動くのがむちゃくちゃかわいくて,思わず動画撮った.
うーん,素晴らしい.
僕が一番好きな動物はアルパカだったけど,この日からチェンジして,キングペンギンのヒナと答えることにする.
P1070221_2 posted by (C)peru
冬場の特別イベントであるペンギンのお散歩.これはもう,かわいいなんてもんじゃないです.凛々しいのがたくさん行進したあと,後ろの方にヨロヨロとだるそうについてくる(成鳥になりかけの)ヒナの歩き方に,みんな大爆笑.てっきりあのよぼよぼさは年寄りだと思ったのだけど,逆だった.
P1070229 posted by (C)peru
あざらし館のもぐもぐタイム.(食餌)元気にパクパクとホッケを食べる姿はたいへん愛嬌があり,歓声があがる.
飼育係の人のワンポイントガイドでは,アザラシの生態を紹介するだけでなく.波打ち際に大量のゴミが漂着することで,アザラシがゴミを食べて死んだりしていること,地球温暖化が進む中でアザラシが子どもを育てる流氷が減っていること等の現状を解説していた.「みなさん,そのことも考えてみてくださいね」と.
そして,今回一番感動したのが,2008年にオープンした「オオカミの森」.
このエントリの扉にある雪の上の写真がそれである.
一見,汚らしい犬にしか見えないが,犬よりも気高い雰囲気を漂わせている.そして彼らは月夜にこの岩山の上で雄々しく白い息を吐きながら,本能的に遠吠えするという...かつてエゾオオカミが自生し,人間によって絶滅したこの北海道の地で,自分たちはここにいるんだ,と主張するように.
ちなみに,この施設は100年前にオオカミが生息していた北海道をイメージし,大事なものを失った痛みを込めて設計されたそうだ.
岩山で遠吠えするオオカミの映像が Youtubeに上がっている.とても格好いい.
このオオカミの森は,エゾジカの森と隣接しており,ふたつは金網だけで仕切られている.つまり,かつてこの北海道で共生していた両者の関係を訪問者に考えさせる仕掛けになっている.一方は人間によって絶滅され,そしてもう一方は天敵がいなくなった反動で生態系が崩れて増殖し,今や害獣だ.森を見終わった後に展示してあるパネルでは,そういった問題を切なく訴えており,見応えがあった.
とりあえず動物は以上で,あとスナップを紹介.
旭山動物園は,予算が少ないという事情もあるが,展示物や内装にコンピュータ臭さが一切ない.全部職員さんが手作りしているのだそう.でもその手書きのパネルは動物への愛に溢れており,ジョークを取り入れたコンテンツも良い味出している.
写真はエゾジカの森の紹介パネル.(クリックで拡大するので興味のある人は読んでみてください.)
おなじくエゾジカの森より.(クリックで拡大します)
どの施設も全部こんなセンスで,思わず笑いがもれるような内容なのだ.まだまだ他にも紹介したいこと沢山あるけども,あとは実際に足を運ばれることをお勧めします.
さて,前編で書いたように,"相手の力を最大限に利用する"という柔道の理念から旭山動物園に通底するものを感じ,ちょっと行ってみたいと思い至ったわけだが.実際に足を運んでみて,そのことはまあ外れてはなかった.
この場合の相手=問題とは,動物園におけるユーザ体験である.これまでプアな満足度しか得られなかった動物の鑑賞を,切り口をかえて隠れていた価値を再発見させるだけで,一気にリッチなユーザ体験に変えている.
従来の姿だけを見る展示方法ではなく,動物自体が持っている習性や能力に光を当て,動物にとって居心地の良い場所を作ること,そして生き生きと能力を発揮する動物を見せることで,人に感動をもたらすこと,いわゆる,「行動展示」という方法によってである.
その方法が生まれた経緯について,館長達の言葉から引用してみる.
なるほど.こういった発言からは.来場者中心の視点だけではなく,動物にとっても元気に生きれるような,複数の視点で考える姿勢が徹底していることがわかる.ここまで深く問題を理解しているからこそ,人と動物の絶妙なインタラクションをもつ"場"が次々と生み出されているのだろう.
こんな魅力的な動物園は,いったいどうやってできたのだろうか?施設を見終わった後,僕はそこに強い興味が湧いた.
読んでみた数冊の資料によると.どうやら廃園寸前から奇跡の復活という有名なストーリーは,あくまでもいろいろな悪事情が重なった現象上のものらしい.スタッフはずっと昔から絶え間ない努力をし続けており,スタッフの世代毎に継続して花が咲くための土壌が作られていたということだ.あのユニークな展示施設はハードとしての一面でしかなく,むしろ," もぐもぐタイム"や"ワンポイントガイド",手作りの情報発信などのソフト面を作り上げてきたスタッフのコミュニティの力が凄いのだろう.
それだけじゃない.
ここまではメディアでもわりとよく紹介されることである.しかし,動物園全体から発されるメッセージは,そういった先入観や予備知識を遙かに凌駕していた.非常に大きなスケールで,動物園の存在意義とは一体何か,について考えていることが強く感じられた.
(つづく)
どの施設も全部こんなセンスで,思わず笑いがもれるような内容なのだ.まだまだ他にも紹介したいこと沢山あるけども,あとは実際に足を運ばれることをお勧めします.
さて,前編で書いたように,"相手の力を最大限に利用する"という柔道の理念から旭山動物園に通底するものを感じ,ちょっと行ってみたいと思い至ったわけだが.実際に足を運んでみて,そのことはまあ外れてはなかった.
この場合の相手=問題とは,動物園におけるユーザ体験である.これまでプアな満足度しか得られなかった動物の鑑賞を,切り口をかえて隠れていた価値を再発見させるだけで,一気にリッチなユーザ体験に変えている.
従来の姿だけを見る展示方法ではなく,動物自体が持っている習性や能力に光を当て,動物にとって居心地の良い場所を作ること,そして生き生きと能力を発揮する動物を見せることで,人に感動をもたらすこと,いわゆる,「行動展示」という方法によってである.
その方法が生まれた経緯について,館長達の言葉から引用してみる.
なぜ旭山動物園はここまで集客できたのか?
それは僕らがどんぞこにいたとき,公務員の常識から外れたからである.公務員なのに必死にお客さんのことを考えた.僕たちには飽きることのないアザラシ,でもお客さんにはただのアザラシだった.自分を自慢しないアザラシ,彼らの魅力を知っている僕たち.ならば僕たちがお客さんとアザラシの架け橋となり,お客さんに彼らのすばらしさを伝えよう.もう20年も前に始めたワンポイントガイドの始まりだった.
(板東元 夢の動物園 p114)
例えばライオンがいますよね.そこで「ライオンはね」から初めて「ネコ科の動物でね」と続けても,それは本を読めばわかる話なので最後まで聞くのは退屈なんですよ.だけど,「うちのライラは何年生まれで,今は人間でいうとこのくらいの大きさなんだ.今までに何回子どもを産んで,こういう性格をしているんだよ」と,そこからライオンの生態について話をしていくんですよ.すると大人も子どもも関係なく興味をもって最後まで話を聞いてくれるんです.<中略>
お客さんが何を見たいと思っているのか,何がすごいと感じているのかを肌で感じできたことが今の仕事の原点になっていったと思います」
(板東元,旭山動物園の奇跡 p38)
同業者からは動物を見せ物にしている.こんな前時代的なものがあっていいのか.とずいぶん叩かれました.しかし,うちにいる動物を見ていただければわかりますが,全く刺激のない独房のような檻の中にいるより.動物にとってずっといい環境だと思います.
(小菅正夫,旭山動物園の奇跡 p82)
なるほど.こういった発言からは.来場者中心の視点だけではなく,動物にとっても元気に生きれるような,複数の視点で考える姿勢が徹底していることがわかる.ここまで深く問題を理解しているからこそ,人と動物の絶妙なインタラクションをもつ"場"が次々と生み出されているのだろう.
こんな魅力的な動物園は,いったいどうやってできたのだろうか?施設を見終わった後,僕はそこに強い興味が湧いた.
読んでみた数冊の資料によると.どうやら廃園寸前から奇跡の復活という有名なストーリーは,あくまでもいろいろな悪事情が重なった現象上のものらしい.スタッフはずっと昔から絶え間ない努力をし続けており,スタッフの世代毎に継続して花が咲くための土壌が作られていたということだ.あのユニークな展示施設はハードとしての一面でしかなく,むしろ," もぐもぐタイム"や"ワンポイントガイド",手作りの情報発信などのソフト面を作り上げてきたスタッフのコミュニティの力が凄いのだろう.
それだけじゃない.
ここまではメディアでもわりとよく紹介されることである.しかし,動物園全体から発されるメッセージは,そういった先入観や予備知識を遙かに凌駕していた.非常に大きなスケールで,動物園の存在意義とは一体何か,について考えていることが強く感じられた.
(つづく)
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